AR グラス Nreal Light ファーストインプレッション

AR グラス Nreal Light の開発キットを1月に注文。
3月に届くはずが、コロナ禍のせい(だけかどうかわからないが)で遅れに遅れて8月にようやく到着。

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AR と言えば Microsoft の HoloLens が代表的な製品で*1、他に Magic Leap One などもあるけど、「電脳コイル*2を実現するには、メガネ型で、日常的にずっとかけていられて、子供が学校に持っていける価格でないといけない。

後述するが、Nreal Light(以降 "Nreal") もまだまだ全然ずっとかけていられる代物ではないけど、現行機(開発版含む)で唯一のメガネ型であり、グラス単体なら $500 程度と、ぎりぎり小学校に持っていけなくもない(例:牛革のランドセルは4~5万円)、という理想に一番近い(一応)、夢を見させてくれるデバイスである。
まあまだ夢なんだけど。

というわけで、まずはハードウェア周りのファーストインプレッションから。

かけてみて真っ先に気づくのが、ツルの幅が広すぎてずり落ちる。調整機能も見当たらない。
しょうがないので、ダイソーで「メガネストッパー」なる、メガネのツルに通すシリコン製の柔らかい爪を買ってきて Nreal のツルに頑張って付けた。
これが大正解。ずり落ちなくなって、しかも Nreal の重さを鼻だけではなく両耳の後ろにも分散できるようになって、掛け心地もかなり良くなった。電源を入れてなければ、1時間以上かけていてもしんどくない。
ただし、Nreal の左のツルからは本体であるコンピューティングユニットと接続するための約 1メートルの USB ケーブルが伸びていて、そのコネクタもふくめてメガネストッパーを通す必要がある。かなり時間のかかる作業で、ケーブルやその接続部分に負荷をかける可能性もあるので、ご興味のある方は自己責任で。

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映像の見え具合は、高精細で十分きれい。立体感もちゃんとある。
Nreal の映像の視野角は 52度あり、実際の見える範囲としては60センチ先の27インチディスプレイといったところ。それをはみ出した映像はぶった切られる。
現行機最大クラスの視野角だが、「拡張現実」と言い張るにはまだまだやっぱり狭い。現行 VR ヘッドセットで標準の 100~110度にはなんとか早いところ追いついてほしい。
またハーフミラー方式(実視界と CG をハーフミラーで合成)なためしかたないのだが、仮想の映像を透かしてその向こうの「現実」がうっすら見えちゃっている。いわゆるホログラム(特に映画やゲームにおける表現*3)を思い浮かべてもらうとわかりやすいだろう。

電脳コイル」では、電脳物質(仮想の物体やペット)かどうかをメガネをずらして確かめるというシーンがちょいちょいあるのだが、Nreal では仮想の映像と現実の区別がつかない心配はない。
視野角はともかく、「ホログラムっぽさ」はハーフミラー式ではどうしようもないので、それ以外の表示方式が安価かつ軽量で実現するのを期待するしかないだろう(ビデオパススルーか、網膜投影か、はたまたブレインマシンインターフェースか……って、そこまでいったらメガネいらん)。

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さらに 6DoF トラッキングの精度がまだ低いのか、体を動かすと映像がちょっとついてきてしまう。それどころか、自分が静止していても表示が微妙に動く。
Oculus Quest など現行の VR ヘッドセットでは、静止している仮想オブジェクトは自分がいくら移動してもその場に静止して見えるおかげで、物理的に質量を持って存在しているかのように感じさせてくれる。XR におけるトラッキングの重要性を改めて実感。
このあたりはソフトウェアアップデートによる向上を期待したいところだけど、Nreal のカメラは前面の前方向にしかついていないので、果たして。
とはいえ Qualcommチップセットにトラッキング技術を積んでくる気満々なので、こうした心配は今だけになりそう。

クアルコムVR/ARデバイスの新型リファレンスモデル スマホ接続と一体型モードを切り替え | Mogura VR
https://www.moguravr.com/qualcomm-vr-ar-reference-model/

多くの VR ヘッドセットと同様に近視の人が裸眼で見ることはできないので、視力矯正の必要がある。
形状的にリアルメガネと重ねるわけにもいかないので、視力矯正用レンズを付けられるようになっている。
標準で矯正用フレームのサンプルが付いていて、これをメガネ屋さんに持って行って自分用の矯正レンズを入れてもらうか、開発キットと一緒に売っている Lens Box($499) を購入する必要がある。Lens Box は度数 1.0 から 8.0 まで 0.5 刻みの 15×2 枚のレンズが入ってて、Nreal の内側にマグネットで簡単につけたり外したりできる。
周りのいろんな人に AR グラスを体験してもらうべく Lens Box もゲットしたのだが、コロナ禍のせいでその機会は当分難しそうだ。無念。

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この写真でレンズの上に少し平たい部分があるが、ここが主な放熱を担っているようで、稼働しているとかなり熱くなる。温度を測る機器を持っていないので正確な数字を出すことができないのだが、とても触ってはいられないほどである。
その状態でこのメガネを掛けると額のすぐそばに高熱源がある状態になり、連続利用は我慢して30分が限界だった(個人の感想です)。
メガネ側の仕事は映像のデコードとカメラのエンコードあたりか。そのため、ある程度熱を持つのは仕方ないが、顔に近い側で触れないほどの熱を持つのはさすがに困る。せめて顔から遠い側ならよかったのだが(Oculus Go のように)、前面にはカメラとレンズがあるから今の場所しかなかったということだろう。

連続使用を阻むのはこの熱問題だが、日常使用を妨げる問題がもう1つある。
Nreal を前から見ると、レンズの上半分にはカメラがある。その後ろには実は液晶パネルが下向きに入っており、ハーフミラーで実視界と映像が合成されるとてもシンプルな構造をしている。そのおかげで Nreal は他製品に比べて安価だが、レンズ部分にどうしても厚みが出てしまっている。

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問題は、このように上半分にいろんなモノが入っているため、実視界は下半分しかないという点である。Nreal をかけて道を歩くと、信号を見るために顔を上に向ける必要がある。車の運転はありえないだろう。
またハーフミラー式ならある程度は仕方ないものの、おそらくコストダウンか発熱を少しでも抑えるためあたりの事情で、実視界がかなり暗くなっている(その方が液晶パネルの輝度を上げなくても良い)。Nreal を掛けながら PC を操作するには、ディスプレイの輝度を最大近くしないと文字が読めないほどの暗さである。
視界の暗さは最初からサングラスかけてるつもりになればなんとかなる(かなあ……)としても、実視界の狭さは絶対に越えないといけないハードルなので、頑張ってほしいところ。
とはいえ、HoloLens がまさにその視界の広さ・明るさ(そしてレンズ部の薄さ)に技術をぶっこむことであの価格になっている様子を見ると、すぐに解決できる問題ではないんだろうなあ。

HoloLens光学系の謎に迫る
https://www.slideshare.net/AmadeusSVX/hololens-85758620

あとは、ここまでに書いたことと比べると些細な話だが、Nreal は公称 88g の「軽さ」をめちゃめちゃウリにしている。しかし実際に持って、掛けてみた感じはもうちょっと重く感じる。
また本記事ではほとんど触れなかった Nreal の本体であるコンピューティングユニット(こいつもめっちゃ熱くなる)は公称 140g なはずが、持った瞬間にわかる、それより絶対重い。
というわけで測ってみた。

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グラスの重さはケーブルを手で支えながら計測している。メガネストッパーも付けちゃった後なので、もう少し数字を割り引かれる可能性はあるが(鼻当ても外せるが、めんどくさくてやってない)、それでも 88g まで減るだろうか。
コンピューティングユニットはこれ以上外せるものは何もないので、140g は何かの間違いだろう(電池を除外した重量? 外せないが)。
それにしてもディスプレイもカメラもないのに重すぎ。Galaxy Note20 Ultra でやっと 208g なのに。

とここまで期待の裏返しで文句ばかり書いてしまったが、いろいろ割り引いた後でも十分楽しいデバイスである。
ソフトウェア面でもハードウェア面でも、VR における Oculus DK1 に相当すると言えば雰囲気は伝わるだろうか。Oculus Go/Quest のように人を選ばないレベルになるにはまだ数年かかるだろう。
そして「電脳コイル」のように日常的に使えるようになるのは何年後か。そういう夢を実物のデバイスを手にしながら語れるようになったのがすごいよね。

Nreal のソフトウェアや開発周りはまた別の記事で。

*1:単に AR というとポケモン GO なども含まれてしまうので、この場合 MR と言った方がいいのかも。

*2:電脳コイル」は、メガネ型のウェアラブルコンピュータが普及して、仮想の電脳世界が現実世界に交じり合った拡張現実が当たり前になった近未来(202X年)の地方都市を舞台に、主人公の小学生たちが日常の遊びの延長で電脳世界をハッキングしたり、破棄された電脳世界に隠された秘密を探したり……という名作アニメ。一言で説明するの、難しいな。https://www6.nhk.or.jp/anime/program/detail.html?i=coil

*3:スターウォーズのホログラムや、「ホライゾン ゼロ ドーン」のフォーカスでみるホログラフィックなどなど