WinFS ショック

MicrosoftWinFSを分割
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0606/28/news057.html
MicrosoftWinFSの開発中止を表明
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0628/hot434.htm
WinFS、紆余曲折の末開発中止
http://slashdot.jp/articles/06/06/28/1325203.shtml
WinFS Team Blog - WinFS Update
http://blogs.msdn.com/winfs/archive/2006/06/23/644706.aspx
WinFS Team Blog - Update to the Update
http://blogs.msdn.com/winfs/archive/2006/06/26/648075.aspx

とりあえず、ありったけ貼り付けてみた。


"WinFS がすっかりなくなったわけじゃないでしょ" 的論調もあるが、要素技術ごとに別々の製品に組み込むっていうんだから、WinFS という名前で Microsoft が喧伝し、WinFS という名前で皆が期待していた「何か」は登場しないことが決定してしまったわけだ。


タグなんかいちいち付けてられないからこんな技術はあってもあまり意味がない、という意見もある。
確かに全てのタグを人間が付けないといけないというのはあり得ないだろう。
しかし、テキスト文書からベイジアンその他によって、タグ付けを行う技術もどんどん作られている。
写真にしても、Photoshop Element 4 では http://dc.watch.impress.co.jp/cda/parts/image_for_link/32293-2381-5-1.html のように写真に写っている顔の部分だけを切り出して、「誰が写っているか」というタグを簡単に付けられるようになっている。ここまでくれば、誰が写っているか自動的にタグ付けするところまであと一歩だ。
mpeg7 は動画のファイルはもちろん、各シーンなどにもタグ(メタデータ)付けを行う場合の規格だが、動画から mpeg7 対応のタグ付けを自動的に行う技術だってかなり進んできている。


アプリケーションごとに自前でタグ付けを行って、それでファイルを管理していくというやり方ももちろん可能だ。
前述の Photoshop Element 4 はまさにそういうものだし、アプリーケーションレベルでの連携が加えられてはいるが spotlight もやっぱりその類である。
しかしそれだと、写真を管理するツールが複数あったら、同じ写真リソースであってもツールごとにタグを付けて回る必要がある。


ファイルシステムレベルでそれが管理されていれば、タグを単純に共有できるというか、タグを付けるアプリケーションと利用するアプリケーションが別々でもかまわないわけだ。
例えば画像を扱うアプリケーションがあったとき、タグ付けを行うアプリケーションを追加することで、元のアプリケーションの使い勝手が良くなるなどの「タグを通じた緩やかな連携」、つまり相互運用性の向上を目指すことができる。
これこそが "WinFS" に期待していたことだ。


というわけで、今回の決定はとても残念だ。


気になるのは「なぜ断念せざるを得なかったか?」だ。
差別化、囲い込みの両面で WinFS は効果的だったはずだ。
最も情報量が多いのは、WinFS Team Blog での公表の後に寄せられたとおぼしき質問に答えている記事 Update to the Update だが、重要なことは書かれていない。
一般的な範囲で理由を憶測してみよう。

1. できあがったものがあまりにバギーで、リリースできないと判断せざるを得なかった

さすがに考えにくいか。
仮にも Microsoft である。最高の技術者が集まっているだろうから、そこまでひどいことはないだろう*1

2. 設計上の根本的な問題が発生し、解決・回避する方法が見つからなかった

Update to the Update にて 'Was WinFS "killed" because of its design?' という質問に "No." と答えているので、一応そうではないと言うことになっている。
だが、本当にそうだろうか?
本当に技術的な問題が無いのだとすると、リリースを断念しなくてもいいのではないかと感じてしまう。

3. 必要なパフォーマンスをどうしても確保できなかった

WinFS はかなりのオーバーヘッドが予想される。
それでなくても RDB はデータ量とクエリーによってはごっそり CPU パワーを持っていく代物である。
それを一般のOSに入れるということは、管理者のいない状態で運用するということだ。
実際、WinFS Update にも(WinFS に含まれている) "auto-admin work" を SQL-Server の次版である Katmai に組み込むということが書かれている。
サーバレベルであれば有用な技術であっても、一般のOSに組み込むにはどうしても壁が越えられなかった、という可能性は十分考えられるのではないか。
さすがに「クアッドコア前提」とか言うわけにはいかないだろうし……

4. マーケティング的に重要性が低くなった

以前 id:n_shuyo:20060529, id:n_shuyo:20060530, id:n_shuyo:20060604 にて Google のサービス展開を相互運用性(interoperability)の観点から分析した。
また、MicrosoftWinFS とは別に大きな方針転換をしている。明らかに Google 対抗の "Windows Live!" だ。

WinFS は「クライアントPC上でのメタデータ処理」によって相互運用性を確保することを目的の一つとしている。
しかしもし Windows Live! 的世界になると、そのメリットはずいぶん小さくなってしまう。

5. もっといいこと(おもしろいこと)を思いついてしまった

もしそんなことだったら楽しいのだが。
まあでも、何年も研究開発を続けていたら、ままよくあることである(笑)。

*1:いくつバージョンを重ねても、相変わらず画面表示と印刷イメージがかけ離れている Excel を思い起こすと、疑いが頭をもたげないでもないが(笑)