プチコンで 3DS のゲームを作ろう #petitcom

3DS になんか見たことないゲームあるけど、おっちゃんこれなに?」

「これはゲームやない。プチコン3号や。プログラミングってわかるか?」
「学校で『スクラッチ』ってのちょっとだけやったことあるよ。自分で 3DS のゲームが作れるってこと?」
「 Scratch(スクラッチ) 知っとるんやったら話早いわ。そうや、好きなゲーム作れんで。性能も機能もそこそこちゃんとしてるし、Scratch よりゲームっぽいゲーム作れるわ。ちょこっとめっちゃいっぱいがんばったら」
「めっちゃいっぱい……じゃあなんかゲーム作って、おっちゃん」
「あほう! 『自分で作れる』って自分で言うたやろ。遊びたかったら自分で作るんや!」
「えー。教えてくれるんだったらがんばってみる」
「その意気や。ほれ、やってみ」
プチコン始めるっと。メニューみたいの出てきたけど」

「『Smile BASIC(スマイルベーシック)でプログラムを作る』やな」
「『作品を見る』とか『作品公開とダウンロード』とか、これってもしかして自分で作らなくても……」
「はよ『作る』押せや」
「おっちゃんこわい(涙目)。うわー黒い画面とボタンいっぱい出たーむりー」


「これは古き良き BASIC の起動画面やな。ベーマガ世代なら懐かしいて涙ちょちょぎれるとこやけど、子供らはそんなん知らんのやから、もうちょい今風にしてもええと思うねんけどなあ。言語仕様もなにかと……」
「おっちゃん、誰に向かって話してるの? ここからどうやってゲーム作るの?」
「お、おう。どんなゲームが作りたいんや?」
「うーん。ポケモンとか妖怪ウォッチみたいなやつ?」
「フィールドタイプの RPG か。いきなしハードル高いなあ。ま、ええか。何事も経験や。下画面の真ん中の下にある "SMILE"(スマイル) っての押してみ」
「このニコニコマーク? はい。なにこれ?」


「スマイルツールっつってゲームの音や絵を用意したり作ったりするツールやねんけど、『いちげんさんお断り』感ありありやわなあ。まあグチっててもしゃーないから、今は下の "SPDEF" ってやつ押したって」

「ちっちゃい絵がいっぱい出た。イチゴ? ミカン? サクランボ? あ、もしかしてキャラクタどれにするか選べるの?」
「そうや。これはスプライトや。自分で好きな絵ぇ描くこともできるけど、今回はもうあるやつから主人公を選ぼうか」
「スプライトってスクラッチにもあったよ! ゲームのキャラクタだね。でもサクランボで RPG 作れるかなあ……」
「それもシュールでおもろそうやけど、十字キーで下へ行ったら他にもいろいろあるで」
「探しにくい」
「言うたんな……」
「あ! これ! これにする」

「お姫さんが主人公か。そういう RPG 無いわけやないけど、珍しめやな」
「どうやって選ぶの? OK ボタンとかないけど」
「甘ったれんな。そのキャラクタの上に書いたある数字覚えて、プログラムの中にその数字を書くんや」
「マジ?」
「まじまじ。はい、数字写したったから」

姫
596,597,598,599	右
600,601,602,603 下(正面)
604,605,606,607 左
608,609,610,611	上
612,613 右(伏せ)
614,615 左(伏せ)

「なんかめんどくさい……」
「次はお姫さんを表示するプログラムを書こうか。まず右の "EXIT"(イグジット) か X ボタンを押してツール終了や。またキーボードの画面に戻るから、今度は左下の "EDIT"(エディット)っての押してみ」
「押したけど……なんか変わった?」
「上の画面にプログラムを作るモードに変わったんや。下画面のキーボードを押したら、上画面に文字出てくるから、とりあえず今はこの通りプログラム書いてみ。行の終わりは右下の ENTER(エンター) 押すねんで 」

ACLS
SPSET 0,600
SPOFS 0,200,120

「全然わかんない」
「後で説明したるし。でけたか? そしたら START(スタート) ボタンを押して、初のプチコンプログラム実行や」
「START っと……。あ! 真ん中にちっちゃいお姫様が出た!」

「出たやろ? じゃあプログラムの説明すんで。プログラムっつうのは……」
「ねえねえ、十字でもスライドパッドでもお姫様動かないんだけど。バグ?」
「動かすプログラム書いてないねんから動くかいな。なんで『バグ』とかそんな言葉だけ知ってるねん」
『都会(まち)トム』で言ってたから」
「なんやそれ? ゲーム作る小説? まあええか。説明すんで。プログラムっつうのはコンピュータに渡す命令を並べたもんや。3DS もコンピュータの一種やからな。コンピュータはプログラムの順番通りに命令を実行するんや」
「ふーん。じゃあさっきのプログラムは『お姫様を表示して』っていうプログラムだったんだ。でも『お姫様を表示して』って命令にはなんとなく見えないけど……。3行ってことは命令3つ? お姫様表示するだけにそんなにいるの?」
「お姫さん表示する専用の命令みたいんまであったら、命令の数どんだけいるねん。お約束の多い今どきのプログラムからしたら3行でも短い方やで。表示する前の準備とかもあるんやし」
「プログラムってめんどくさいね……」
「ほんなら1行ずつ見ていこか。1行目の ACLS は画面をきれいにする命令や。見えてる画面はもちろん、見えてへんところにも画面がいっぱいあったりするんや。プログラムを走らしたり終わらしたりしても、全部の画面を勝手にはきれいにしてくれへん。誰か別のプログラムがお姫さんの絵を書き換えとったら、全然違う絵になってバグなんか何なんかわからんハメになったりする。ACLS はそれを全部きれいさっぱり一番最初の状態に戻してくれるんや。とりあえずプログラムの最初には ACLS って書いとくもんやと思っといたらええ」
「エーシーエルエス……そんな読めない命令覚えられない……」
「そこらへんはしゃーないなあ。一応、オール・クリヤー・スクリーン(All CLear Screen) で ACLS やねんけど……そんなん言われても、みたいな顔せんでええから。要るもんはがんばって覚えるしかないけど、せいぜい数十いうところやからなんとかなる。そん中でもよう使う命令はさらに限られとるし。ほんまもんの英語やと何万語も覚えんならんこと考えたら余裕やで」
「……はーい」
プチコン3号のエディタは途中まで入力したらキーボードの上に命令の候補が出るんで、うろ覚えでもまあまあなんとかなるし。まあ実際にプログラミングしてみたら案外大丈夫なもんやで」

「プログラムの説明に戻んで。2行目と3行目は『スプライト』の命令や。SP で始まる命令はほぼ全部スプライトをどうこうするためのもんと思っといてええ」
「『スプライト』って、スクラッチでもあったよ。ゲームのキャラクタでしょ」
「そや。大ざっぱに言うたら、『スプライト』は絵があるキャラクタをうまいこと動かす仕組みや。敵とか味方とか弾とか魔法とか爆発とか、ゲームの中で動くものはだいたいスプライトとして作るんは Scratch(スクラッチ) でもプチコンでも全く一緒やな」
「じゃあさっきのプログラムはお姫様スプライトに書いてあったんだね」
「ん? あーちゃうちゃう。そこは Scratch とプチコンの決定的にちゃうとこやな。Scratch は基本的にスプライトにスクリプトを書く、つまりゲームのキャラクタそれぞれがプログラム持っとって、それぞれ勝手に動くっちゅう今どきのスタイルやねん。けど、プチコンは1個のプログラムが全部のスプライトを動かすっていう古いスタイルやねん」
「そう言われれば、スクラッチは猫のスプライトに『10歩動かす』って書いたら猫が動いて、犬に『90度回す』って書いたら犬が回るんだった。んー、でもプチコンはプログラム1個しかないんだったら、お姫様に『動け!』って言ったのに王様が動いちゃったりしない?」
「そこはスプライトに番号つけて区別するんや。番号は 0 から 511 までで好きに決めてええねんけど、まあ小さい方から使うといたらええ。今のプログラムではお姫さんは 0 番になってる。2行目の SPSET 0,600 は、0 番のスプライトに 600番の絵を SET(セット)するって命令や。さっきメモしたお姫さんの正面向いてる絵が 600 やったやろ?」
「じゃあ 600 を他の数字にしたら絵が変わるってことだね。じゃあ……プログラム書くには EDIT(エディット) だったっけ……で、600 を 123 に変えてみて、START(スタート) を押したら……わぁ、ピコピコハンマーになったー」
「3行目の SPOFS 0,200,120 は、0 番のスプライトを画面の左上から数えて右に 200、下に 120 行ったところに動かせって命令や。画面は横 400、縦 240 の大きさやから、これで画面のちょうど真ん中あたりにお姫さんが表示されるって寸法や」
「じゃあ 0番はお姫様で、1番は王様で、みたいに最初に決めとかないといけないんだ。忘れそう……」
「スプライトの番号割り振ったら、さっきお姫さんのキャラクタの数字メモったみたいに紙に控えとくんや。人間すぐ忘れるからな」
「プログラムって大変だね……。いちいちお姫様を 0 番とかしないで、600 番のお姫様を真ん中に表示、ってできないの? それなら命令1個でお姫様表示できそうだけど」
「お姫さんが1人しかおらんかったらそれでもええかもしれんけど、同じお姫さんが2人3人いたら困るやん。全部 600 番なって区別つかへん」
「お姫様が2人ってお姉ちゃんと妹とか、ほかの国のお姫様とか? そういうときは色とか変わるでしょ。ピーチとデイジーみたいに*1
「えーとじゃあ村人A、村人B、村人Cとか?」
「あー、おんなじ顔でおんなじ服で。それならいそう。シューティングゲームでおんなじ敵がいっぱい出てくるのとかもだね」
「あとお姫さんもいつも 600番の絵やのうて、右向いたら別の絵に変わるわけや。キャラクタとしてはおんなじお姫さんでもな。そこらへんも考えたら、キャラクタごとに『スプライトの番号』があって、SPSET でその番号がどんな絵になるかを決めるんが賢いんや」
「そして SPOFS は 0番のスプライトを真ん中に表示するんだね」
「ちょい違う。『左上から数えて右 200、下 120 に動かす』や。試しにこの3行目だけ削ってみ」
「あ。お姫様が一番左上に表示された。そっか、SPOFS がキャラクタを表示するんじゃなくて、SPSET のときにもう表示されてて、 SPOFS は移動なんだ。それなら名前を SPMOVE にしてくれればいいのに」
「OFS は OFFSET(オフセット) の略で、基準の位置からどれくらいずれてるかって意味やねん。MOVE(ムーブ)、つまり移動だと、今いる場所からの移動みたいに解釈できてまうんがイヤやったんちゃうか」
「SPOFS はスクラッチの『10歩動かす』じゃなくて『 x座標を 200にする』の方ってことかあ」
「おう、そうやそうや。プチコンでも画面上の左右の位置は x 座標、上下の位置は y 座標っていうんで、Scratch といっしょやな」
「右 200、下 120……つまり x 座標が 200 で y 座標が 120 は真ん中あたりってのはどうやってわかるの?」
3DS の上画面は横 400、縦 240 の大きさやねん」
「真ん中ならその半分の 200, 120 にすればいいんだね。じゃあ SPOFS 0,400,240 ってすれば右下に……あれー何にも表示されない」
「スプライトの左上を 400,240 に持っていってるから画面の外に行ってしまうんや」
「えーとどういうこと? ……ああ、ちょうどスプライトの大きさの分戻してあげればいいのか。ってスプライトって大きさどれくらい?」
プチコン3号のスプライトは大きさ変えれるから、ものによってちゃうけど、だいたいは縦横 16 や。お姫さんもな」
「それじゃあ 400 と 240 から 16 引いて…… SPOFS 0,384,224 ってすれば……右下に出た! なんとなく好きな場所に表示できそうにはなったけど、全然ゲームじゃないよ? スライドパッドでお姫様動かしたいんだけど」
「スライドパッドは STICK(スティック) って命令を使うんや」
「また新しい命令かー。さっきの SPSET とか SPOFS とかといっしょで、1番目の数字がナニナニで、2番目がコレコレみたいなことがまたあるんでしょ。そんなのいちいち覚えてられるかなあ」
「大丈夫。STICK って打って、キーボードの右上の『?』押してみ」

「なんか説明出てきた。ふーん、こうやって命令の説明見れるんだ。へー」
「スライドパッドで下にずらしてったら、使い方の例も出てるし、まあ完璧とは言わんけど、そこそこなんとかなるで」
「その説明がよくわからないんだけど……。"STICK [端末ID] OUT X,Y" ってどういう事?」
「『引数』のとこに説明あるやつは、好きな値とか変数とか式とか置き換えれるやつや。これやと『端末ID』と『X』と『Y』やな。[ と ] で囲まれとるんは省略できるいう印や」
「省略できるって言われても、省略した時としなかった時でどう違うのかわかんないよ」
「親切やと省略したらどうなるんか書いたあるんやけどな……。『ワイヤレス通信で他の端末の情報を取得する際に指定』か。つまり、指定せんで省略したら自分の本体のスライドパッドのんが取れるっちゅうこっちゃ。わかるやろ?」
「わ・か・り・ま・せ・ん」
「そやろうなあ。わかるやつしかわからんのんは説明としてはビミョウわなあ」
「わかんないけど、端末IDってのは省略しちゃっていいってこと?」
「まあ今はそうや」
「OUTは引数のところに無いんだけど」
「そういうんは命令の一部やからそのまま OUT(アウト) って書くんや。最初っから STICK OUT って命令やと思うといたらええわ」
「 X, Y は『変化量を受け取る変数』……変数ってスクラッチにもあった気がする。数字を入れて持っておける箱だよね。スクラッチだと変数のパーツを置いたら使えたけど、プチコンは?」
「初めて変数使うたときに勝手に用意されるんやが、それやと逆にわかりづらいやろうから、VAR(バー) って命令で箱を用意するもんやって覚えとく方がええかもな。X と Y って変数使いたいなら VAR X, Y ってどっか最初の方に書いといたらええ」
「じゃあ、お姫様の表示位置が 200 と 120 になっていたのを変数 X と Y にして、STICK OUT の受け取る変数にそれを使ったらいいってことかな」
「悪うない。やってみ」

VAR X,Y         ' 変数 X と Y を用意(無くても動く)
ACLS
SPSET 0,600
STICK OUT X,Y   ' スライドパッドの値を X と Y に入れて
SPOFS 0,X,Y     ' お姫様を X, Y の場所に表示

( ' から後ろはコメントだから入れなくていいよ)


「できた! START! ……できてない……どうして……?」
「いろいろ惜しいなあ。どんなふうになった?」
「えー。動かない」
「プログラミングで一番大事なんは、そこでただ『動かない』って言うんやなくて、『どんなふうに動かないか』をちゃんと見ることなんや」
「うーん。でも本当にただ動かないだけだよ」
「何が?」
「お姫様が」
「どこから?」
「左上?」
「どこへ?」
「え? えーと、どこへって言うか、スライドパッドで動かした通りに動かない」
「画面を見て他に何か気づかへん?」
「うーん……お姫様のところになんかちかちかしてて、文字も重なって出てるような…… OK かな、これ。ってあれ? OK って、プログラム動いてない時に出てなかったっけ?」
「つまり、お姫さんがスライドパッドを右にずらしたら右、下にずらしたら下に動いてほしいのに、左上から動かへんし、よう見たらそもそもプログラム終わっとる」
「そうそう。って、そらうごかへんわー」
「おう、ノリ良うなってきたやないか。そしたらまず『プログラム終わっとる』をどうにかせなな」
「スクラッチだったらプログラム勝手に終わったりしないのに……」
「そこは Scratch とプチコンの大きい違いやなあ。Scratch は『すべてを止める』パーツを置くか、自分で停止をクリックせん限り動き続けるんや*2。なんでか言うと Scratch はそれぞれのスプライトにプログラムが付いてて、メインのプログラムっちゅうもんがないねん*3。けど、プチコンはメインのプログラムが最後まで走ったら終わってまうんや」
「でもプログラムって上から順番に実行するんだから、いつかは最後まで行っちゃうよね?」
「ループしたら最後まで行かへんよ」
「ループ? 同じ命令を繰り返すやつがスクラッチにあったけど、それ?」
「そうや。今やりたいんは『スライドパッドの通りにお姫様を動かす』をずっと続けることやから、それをループしたらええ。そしたらプログラムも終わらへんでずっと動いてくれるっちゅうわけや」*4
「スクラッチだと『ずっと繰り返す』みたいなコの字のパーツでループにしたいところを挟むんだったけど、プチコンだとどうするの? コの字とか書けないのに」
「方法はいくつかある。BASIC らしいループ言うたらやっぱし GOTO(ゴウトゥ) 使うたやつやねんけど、Scratch のループ知ってるんやったら WHILE(ホワイル) と WEND で挟む方がええやろうな。WHILE の後にはどこまで繰り返すかの条件を書くんやけど、1 書いたら『ずっと繰り返す』んや」
「そうしたら、ええと、こう?」

WHILE 1      ' ループ開始
VAR X,Y
ACLS
SPSET 0,600
STICK OUT X,Y
SPOFS 0,X,Y
WEND         ' ループ終了

「うわお。やりすぎや。変数用意するのとか、画面消すのとかは繰り返さんでええから」
「そっか繰り返したいところだけ WHILE と WEND で囲えばいいんだね」
「あとは、そやな、ループが一目でわかるよう、先頭に空白を入れて少し下げると見やすなる。Scratch でコの字になっとるんもそのイメージやな」

VAR X,Y
ACLS
SPSET 0,600
WHILE 1      ' ループ開始
  STICK OUT X,Y
  SPOFS 0,X,Y
WEND         ' ループ終了

「こう? うーんでもやっぱり動かない……」
「全然変わらへんか?」
「うん、一緒……いや、OK って出ないから、プログラム終わらなくなった」
「一歩前進やな」
「でも結局動いてないし」
「実は全然動いてないんやなくて、見てわかるほど動いてないだけなんやけどな……」
「えーなにそれ」
「どないするんがええかな。試しにSPOFS に渡す X と Y を 100倍とかしてみるか。プログラミングで掛け算は × やのうて * や」
「プログラム書き替えたくても、 EDIT を押しても何にもならないんだけど……」
「え? ああ、そうか。まだプログラム実行中やから、START 押していっぺん止めて EDIT や」

  SPOFS 0,X*100,Y*100

「こう? じゃあまた START で実行っと。……動いた! お姫様が動いた!」
「完成か?」
「違う! なんか変! これじゃない! でも動いた!」
「そやなあ、たとえ期待通りでなくても動くと嬉しいねん。おっちゃんにもそんな時代が……」
「おっちゃんはどうでもいいから、これどうしたらちゃんと動くの?」
「プログラミングで大事なんはなんやった?」
「『どんなふうに動かないか』。えーと動いてはいるんだけど……スライドパッドを動かしたら、そっちの方にすーっと動いて欲しかったのに、今はスライドパッドを動かした分だけ左上から離れて、スライドパッドを離したらまたもとの左上に戻っちゃう」
「他には?」
「なんか動きが変。思った方向に行かないことがあるっていうか……わかった! 横はいいんだけど、縦が逆だ。スライドパッドを上に入れたらお姫様が下に動く。左右は普通なのに……」
「動きの方はスライドパッドの仕様やろうな。3D のゲームで考えたら、上は『上に進む』やなくて『前に進む』なんやろ」
「そっか。じゃあ 2D のゲームの時は、受け取った Y のプラスマイナスが逆だと思えばいいんだね。離すと元に戻っちゃうのは?」
「STICK OUT でもらえるんは『変化量』やで。そん時のスライドパッドが真ん中からどれくらいずらされてるんかが X と Y に入ってて、その場所にお姫さんを表示してるんやから、そら離したら元に戻るわいな」
「うーん…… X と Y はお姫様の今いる場所のつもりなんだけど……」
「そしたら別の変数を使わなな。STICK OUT で受ける方は DX と DY ってしてみたらどうや」

  STICK OUT DX,DY
  SPOFS 0,X,Y

「あー。そういうこと。いやでもこれ START しなくても動かないってわかるよ!?」
「スライドパッドを右入れたらどうなって欲しい?」
「右に動いてほしい」
「変数で言うたら?」
「変数……横は X か。DX が大きくなったら X が増えてほしい。そっか X に DX を足せばいいんだ」

  X+DX

「惜しい! それやと X と DX を足し算しただけで、足した数がどっかいってまうんや*5。もっぺん X に『代入』せな」
「だいにゅう?」
「とりあえず先に正解を見とくか。X に DX を足すってプログラムはこう書くねん」

  X=X+DX

「XイコールX足すDX? どういうこと? DXがゼロじゃないとダメだよね、これだと」
「このイコールは等しいって意味やなくて、さっきも言った『代入』やねん。 X+DX の結果を変数 X に入れるっちゅうことや。イコールやなくて矢印やったら直観的にわかりやすかってんけどな*6。こんな感じに」

  X <- X+DX    ' ※注:プチコンでこう書いたらエラーになります

「変数イコールがあったら右の計算を左の変数に入れるってことなんだ。あ! スクラッチで『変数を○にする』ってのがあったけど、あれといっしょ?」
「そや。言葉やと勘違いしようがなくてええな。代入って言葉は中学になったら数学で習うんやけど、それはプログラミングの代入とは意味違うねん。んで、かなわんことに高校ではプログラミングは数学なんや。センター試験でプログラミングが狙い目やとかどっかで吹き込まれた生徒がのこのこ来たりするんやけど、そうゆうんはたいてい数学の代入とプログラミングの代入の区別が付かんでえろう難儀したわ……*7
「おっちゃん。ねえ、おっちゃん! これでいいの?」
「ん? お、おう。んーいや、STICK OUT の縦はプラスマイナスが逆やったこと忘れてへん?」
「あ、そうか。じゃあ Y=Y+DY は Y=Y-DY に変えて……」

VAR X,Y,DX,DY
ACLS
SPSET 0,600
WHILE 1
  STICK OUT DX,DY
  X=X+DX
  Y=Y-DY
  SPOFS 0,X,Y
WEND

「スタート! ……消えた? パッドを入れたらお姫様が……」
「あー……。ええとな、プログラムはほぼ合うてんねんけど、速すぎて見えてへんねん」*8
「ああ、知ってる。動体視力ってやつだよね?」
「なんぼ目ぇ良うても見えへんわ。そのくらい速すぎるから、ちょい遅うする命令があるねん。プチコンではループに VSYNC(ブイシンク) って命令を入れとくと、60 分の 1 秒に 1 回ループが回るよう調整してくれる。60 分の 1 秒いうんはハードウェアの都合っちゅうのもあるんやけど、ゲームにちょうどいいスピードなんで、基本いっつも VSYNC って入れるもんやと覚えといたらええ」
「VSYNC ってどこに入れたらいいの?」
「描画のタイミングとか『処理落ち』*9とか、細かいこと言い出したらいろいろあんねんけど、とりあえずループの最後に入れとき。難しいことは難しいことができるようなってから覚えたらええから」

VAR X,Y,DX,DY
ACLS
SPSET 0,600
WHILE 1
  STICK OUT DX,DY
  X=X+DX
  Y=Y-DY
  SPOFS 0,X,Y
  VSYNC     ' 1/60秒に1回ループ
WEND

「動いた! 動くよ! パッドでお姫様が思ったとおりに動く!」
「いつもゲームしとるだけの 3DS で、短いとは言え自分で作ったプログラムでキャラクタ動かせるんは、楽しなるよなあ」
「……でも全然ゲームじゃない」
「そらしゃーない。ちゃんとゲームにしよう思ったらこっからまだまだまだまだかかるわ」
「わかるけど……」
「よっしゃ、そしたらおっちゃんがこれをゲームっぽくしたろ。まだ知らん命令はできるだけ使わんで……。……。でけた」
「はや!」

VAR X,Y,DX,DY
ACLS
SPSET 0,600:SPCOL 0
SPSET 1,269:SPCOL 1:SPOFS 1,100,160 ' 宝箱 その1
SPSET 2,269:SPCOL 2:SPOFS 2,200,160 ' 宝箱 その2
SPSET 3,269:SPCOL 3:SPOFS 3,300,160 ' 宝箱 その3
WHILE 1
  STICK OUT DX,DY
  X=X+DX
  Y=Y-DY
  SPOFS 0,X,Y
  IF SPHITSP(0)>=0 THEN BREAK  ' 宝箱に当たったらループを抜ける
  VSYNC
WEND
SPSET 1,268 ' ふたが開いた宝箱に変える
SPSET 2,268
SPSET 3,268
SPSET 4,24  ' ダイヤモンドを表示
SPOFS 4,100,140

「中身の説明は後でしたるし、ちょい遊んでみ」

「宝箱?」
「そのうちの1つに近づくと……」
「開いた! ダイヤ出た! わーい」

「プログラムのどこが変わっとるかわかる?」
「んー、最初と最後に SPSET とかが増えてる?」
「スプライトの1番から3番が宝箱で、4番が宝石に使うてる。最初の SPSET のかたまりで宝箱(269)を置いて、最後の SPSET らへんで開いてる宝箱の絵(268)に変えたり、宝石(24)を置いたりしとるわけや。まだ知らん命令はできるだけ使わんようにはしたけど……」
「最初の SPSET のとこ、一行が結構長いね。んーこれってもしかして命令つなげてる?」

SPSET 0,600:SPCOL 0
SPSET 1,269:SPCOL 1:SPOFS 1,100,160 ' 宝箱 その1
SPSET 2,269:SPCOL 2:SPOFS 2,200,160 ' 宝箱 その2
SPSET 3,269:SPCOL 3:SPOFS 3,300,160 ' 宝箱 その3

「お、ようわかったな。プチコンは複数の命令を : (コロン) で区切って1行に書けるんや。コロンで分けたら、例えば宝箱1つ分の表示は 3つの命令でできてる」

SPSET 1,269
SPCOL 1
SPOFS 1,100,160

「これが3つ分だとだらーっと長くなりそう。だからつなげたんだね」
「まあそういう同じことの繰り返しを書く命令もちゃんとあるんやけど、今回は知らん命令を使わんようにしたかったんで、やめといてん」
「あれ? SPSET と SPOFS はお姫様を動かす時にもう使ったけど、SPCOL って初めて見る気がする」
「そやねん、こいつはまだ説明しとらん命令やねんけど、スプライトの衝突(しょうとつ)検知のために使わんわけにいかんかってん」
「スプライトのしょうとつ?」
「ループの中で VSYNC の前に入れた 1 行がそれや」

  IF SPHITSP(0)>=0 THEN BREAK

「なんかまだ見たことない命令ばっかり……」
「この一行は『お姫さんが宝箱にぶつかったらループを抜ける』って命令や」
「えーと、お姫様スプライトが宝箱スプライトに触ったらループを抜けて……ああ、最後の宝箱を開ける命令のところに行くんだ。なるほどー」
「 IF(イフ) と THEN(ゼン) は2つセットの命令で、IF の後ろの条件が成立したときだけ、THEN の後ろの命令を実行してくれるんや」
「スクラッチで『もし〜なら〜』ってパーツあったけど、あれと一緒だね。じゃあ IF の後ろの SPHITSP(0)>=0 ってのが、お姫様が宝箱に触ったっていう条件になるんだ」
「 SPHITSP はプチコンのスプライトの命令で、書き方で使い方が変わってちょい複雑やねんけど、 SPHITSP(0) って書いた場合は、0 番のスプライト、つまりお姫さんがぶつかったスプライトの番号が返ってくるねん。なんもぶつかってへんかったら -1 になるから、IF の条件のとこを SPHITSP(0)>=0 ってしといたら、『もしお姫さんが何かにぶつかったら〜』ちゅう命令になるわけや」
「 >= は ≧(以上)って意味?」
「ああ、そうそう。そうや。それも説明せなあかんな。プログラムでは等号・不等号や大小の条件はコンピュータで使いやすい記号になっとって、人間の記号とはちょっとちゃうねん。特に等号は == とイコール2個になるから注意や」

条件 プログラム
= ==
!=
> >
<=
>=

「えーなんでイコール2個……わかった! 代入とごっちゃになるから!?」
「おー賢いなあ。その通り。昔の BASIC(ベーシック) は条件の等号もイコール1個で書いとったもんやけど、それがようバグの原因になってなあ。ノスタルジーあふれるプチコンも、さすがにそこは真似せんかったちゅうわけや」*10
「スプライトがぶつかったらわかるってスクラッチにもあったかも……。でもあっちは『○○に触れた』の○○のところに、ぶつかったか調べる相手を選ばないといけなかったよ。プチコンは何とぶつかったか勝手に調べてくれるんだね」
プチコンも調べる相手を指定できるで。どっちもできる。便利やろ?」
「スクラッチシューティングゲームを作ると、敵いっぱい、弾いっぱいでスプライトがぶつかったかチェックできなくなって、弾の色でがんばってやったりしてたもん。プチコンのほうがたしかに便利かなあ」
「Scratch でシューティング作ったんか。たいしたもんやなあ。それやったらわかるやろうけど、ぶつかったか調べたい相手って、いつも全部のスプライトってわけやないねん」
「自分の弾と自分ってぶつからないよね」
「スプライトごとに衝突チェックするグループをつけたりできるんが、実は SPCOL って命令やねん」
「あー後で説明するって言ってたやつ」
「細かい使い方はややこいからやらんけど、とりあえず SPCOL 0 ってしたら、0番のスプライトは衝突チェックするようになるねん」
「だからお姫様と宝箱の番号で全部 SPCOL ってしてあるんだ」
「これで全部説明したんかな」
「THEN の後ろのBR……ってのがループを抜ける命令?」
「おっ、忘れるとこやった。そや。BREAK(ブレイク) って読むんや。ループを作る命令は今使うてる WHILE 以外にもあるんやけど、そのどれでも BREAK で抜けられるで。あ、GOTO で書いたループはあかんけどな。あと、ループの中にループがある入れ子の場合は一番内側のループから抜けるとかあるけど、まあそこらへんはぼちぼち」
「ねーねー、さっきから遊んでるんだけど、これ、ダイヤが入ってる箱決まってない? いつも左端なんだけど」
「おかしい思うたらプログラムを見てみーや」
「むー」

SPSET 4,24  ' ダイヤモンドを表示
SPOFS 4,100,140

「ダイヤを x 座標 100, y 座標 140 に表示……って、そりゃあ毎回おんなじに決まってるやん!」
「ときどきツッコミ良うなるなあ」
「おっちゃん、これじゃあさすがにつまんない〜」
「じゃあ今日は最後にそこだけなんとかしよか。プログラムで毎回違うことをさせたかったら『乱数』を使うんや。実際にプログラムを書くと……」

SPSET 4,24  ' ダイヤモンドを表示
R=RND(3)+1
SPOFS 4,R*100,140

「アールエヌディーってのが『らんすう』?」
「英語の RANDOMIZE(ランダマイズ) の略だから RND(ランド) って読むかな。こいつは……コンピュータ用のサイコロ? 呼ばれると中でサイコロ振って出た数字が返ってくるみたいなイメージや。普通のサイコロは 6 面やけど、RND は好きな面数選べんで。RND(3) のときは 0 か 1 か 2 が出る『3面サイコロ』や」
「 RND(3) なのに 3 は無いの?」
「 0 か 1 か 2 の『3通り』いうことやな。コンピュータは 0 から始まるほうが都合ええから。1 から 3 の乱数が欲しかったら RND(3)+1 ってするんや。『1から1000までのなにか適当な数』とかほんまのサイコロやと難しいけど、乱数やったら RND(1000)+1 でしまいや」
「 R=RND(3)+1 で、R に 1 か 2 か 3 の乱数が入って、x座標が R かける100, y座標 140 のところにダイヤが表示されるから、毎回違う宝箱のところにダイヤが出てくるようになるんだね」
「どうや、初めてのプチコンプログラミングは?」
「…………10回連続でダイヤ外した……」
「いやいや、ゲームやのうてプログラミングや」
「おもしろかったよ。全然違うのにスクラッチと結構いっしょで、今のところそんなに難しくないし……って、なんか終わったみたいに言ってるけど! 妖怪ウォッチみたいなの作りたいって言ったのに全然できてない!」
「いやいや、ゲーム作るの大変やってことはようわかったやろ。そんなんほいほいゲームできるんやったら、おっちゃん今頃大金持ちや」
「そうかー。おっちゃん、ゲーム買うお金なくて自分で作ってるくらいだもんね」
「そうそう。自分で作ったら金かからへんからなんぼでも遊べんで、ってなんでやねん! 今は大人やから欲しいゲームくらい買えるわ!」
「へー、おばちゃんに許してもらわなくても買えるようになったんだー。よかったねー」
「……お姫さんの右向きの番号とかメモったのに使ってなかったっけ。そこらへんはまた今度な」
「ほーい」



今年のお年玉駄文もちょっと遅れましたが、うちの子供たちのために書いたプチコン3号・チュートリアル。Scratch を知ってる設定は、実際うちの子たちがそうだから。
やっぱり間口の広さは Scratch が圧倒的。Scratch にある程度慣れて本格的なゲームを作るのは難しいとわかったあたりで、プチコンに移ってくる流れができたりすると楽しそうかな。

*1:マリオシリーズの姫。ピーチはピンク、デイジーは黄色のドレスをだいたい着てる

*2:さらに Scratch はキー入力や一部のイベントには止まってても反応します

*3:オブジェクト指向とかイベントドリブンとか、そういうキーワードが出てきてややこしいので説明しません

*4:Scratch も自分でループ書く必要はないけど、実は奥の見えないところでぐるぐる回ってます

*5:さらにプチコンは計算式だけの文を認めてないのでエラーになる

*6:実際、代入をイコールではなく矢印とかで書けるプログラミング言語もあります

*7:ちなみに英語では、数学の代入は substitution、プログラミングの代入は assignment と違う単語だったりします

*8:正確には、プチコンの描画のタイミングより速すぎて、描かれる前に画面の外まで移動してしまっているので、『速すぎて見えない』というより『速すぎて描くのが間に合わない』って感じ。そら見えへんわー。昔のコンピュータの BASIC だと、ウェイト無しで速すぎることはあっても見えないなんてことはなかったんだけどね……。技術の進歩はすごい。

*9:処理が多すぎてそもそも60分の1秒に間に合わないときにガクッとゲームのスピードが落ちること

*10:ノスタルジー的には不等号も <> が良かったかもしれない(笑)