王道ではないプログラミング漫画

2017年に『ぺたスクリプト』というプログラミング漫画を上梓しました。一言でいうと、「日常的なちょっとした困り事をプログラミングで解決する、実際に作れそうな『キテレツ大百科』」です。

創作は作品の中で語らないといけない気がして、積極的な宣伝や説明をしてなかったのですが、出版されて7年経つし、そろそろいいかな、という感じで創作意図や裏話をまとめておきます*1

もともとの経緯としては、学習指導要領の改定で2020年度から小学校でプログラミングが必修となることを受けて、技術評論社さんにて小学生向けのプログラミング漫画の企画が立ち上がったとき、高校時代は文芸部で、その後も趣味で小説や漫画を書いていた中谷に原作のお話をいただきました*2

プログラミング漫画と言って真っ先に思いつくのは、まずは「ゲームで遊びたい子が、パソコンでプログラミングすれば自分の好きなゲームが作れることを知り、褒められながら少しずつ完成させていく」という、すがやみつる先生の『こんにちはマイコン』から脈々と続く王道パターンです。もちろんその王道パターンを最初に検討しつつも、比較的早い段階で他のパターンを探すことにしました。

理由の1つ目は、プログラミング必修化の流れから他の出版社からも同種の漫画が出ることが予想されたことです。実際、同じ2017年に王道パターンのプログラミング漫画が複数出版されました*3。王道パターンは、なにしろ王道なだけあって決して悪くはありませんが、しかし、似た傾向の本がかぶることがあらかじめ予想されるなら、他に行くのは自然な発想ですよね。

王道パターンを採用しなかった理由はネタ被り以外にもあります。王道パターンの場合、その対象読者は「ゲームとプログラミングに興味がある子供」となります。そもそもプログラミングに興味のある子供しかプログラミング漫画を手に取ることはないでしょうし、ゲームはプログラミングのもっとも代表的な入口ですから、とても順当と言えます。なにしろ、自分自身もまさにゲームへの興味からプログラミングを始めた人間でしたし。

ただ、プログラミング必修化の時代になると、プログラミングに興味のない子供がプログラミングに触れることになります。ゲームを遊ぶことには興味があっても、それを自分で作ることには全く興味がない子供もいるでしょう*4。その子たちが王道パターンのプログラミング漫画を手に取ってくれると期待するのはちょっと無理がある気がします。ゲームに興味がない子供にも、というか、ゲームに興味がない子供にこそ読んでもらいたいのです。

さらに王道パターンを採用すると、「パソコンの前で座っているシーン」が多くなりがちという難点もあります*5。まあプログラミング漫画としては必然なのかもしれませんが、もし可能ならそれも根本的に解消したいと思いました。

つまり、

  • プログラミング漫画だけど、パソコンを使わない。
  • テーマはゲーム以外。広く興味を持ってもらえるように、日常に即したものが望ましい。

という、まあまあの無理難題です。でも、この方向で数日考え続けて閃いたのが、「Scratch の部品そっくりのシールを貼ったら、そのモノがプログラム通りに動く」という、ちょこっとファンタジーなアイデアでした。



これでプログラミング漫画だけどパソコンを登場させる必要がなくなりましたし、場面もパソコンの前だけではなくどこでも好きな場所が選べるようになりました*6

テーマについては、以前見てすごく感心したツイートがあって、こういうのがやりたいなあというのは企画が動き始めたかなり早くからありました。シールのアイデアのお陰で、こういうネタもものすごくやりやすくなりました。

またこのアイデアで思わぬ嬉しいことが1つありました。プログラミングなんかしたこと無い人から、「ぺたスクリプトがあったら楽できるのに~と思うことがちょいちょいある」って感想をもらえたんです。

ぺたスクリプトがあったら……と思った瞬間にはもうプログラミングしているということですよね。完成はしてないかもしれませんが(笑)。プログラミング漫画をパソコンから開放したいという発想から生まれたアイデアでしたが、現実のプログラミングもパソコンから開放できてたのか、と ものすごく嬉しかったです。

次回は、漫画の中身についてのお話。

*1:間もなく次の自著が出るので、一種の棚卸しとも言えます。

*2:漫画も描いていいと言われましたが、さすがに商業レベルの腕ではありません……。

*3:「まんがでプログラミング 進め!けやき坂クリエイターズ」はScratch 3.0 対応の新装版で、2017年時点では「はじめてのプログラミング」という名前でした。

*4:今のゲームは高度すぎて、作れそうな感じが全くないのも関係するかも。

*5:こんにちはマイコン」や前掲の2冊は、主人公がゲームの世界に入ってプログラミングの説明をする空想シーンなどを入れることで、「パソコンの前で座っているシーン」を減らす工夫が見られます。そこまで含めて王道パターンと言ってもいいかもしれません。

*6:と言いながら、漫画の舞台のほとんどが家と学校だった……。もっと色んな場面を出したかったです。