知人が「サイトのページビューを〇倍にするように指示が出て、どうやってそれを実現するか考えてる」とこぼしていた。
あるいは静的なコンテンツが主であるサイトならば、まだページビューでもいいのかもしれない。
しかし動的なサービスを多数含むサイトで、「ページビュー〇倍」とか言うのはもはや自分の首を締めるだけだと思うのだが。
例えば簡単な検索フォームを考えてみると、ユーザの利便性を考えれば Ajax で実装した方がいいという判断ができるかもしれない。が、Ajaxで通常用いる XmlHttpRequest は当然ページビューのカウントには含まれない。
検索結果のページ送りや補助的な検索(郵便番号検索とか)がある場合も考慮すれば、レガシーな検索フォームであれば3〜10PVにはなったものが、Ajaxにしてしまったがために1PVに減ってしまう。
しかし、一般的にどちらがよりよいユーザ体験を提供できるかは言うまでもないだろう*1。
ここで問題は「ページビュー〇倍」が目的か手段かということだ。
常識的には当然「手段」であるに決まっているはずなのだが、往々にして「目的」として扱われ、最悪「ノルマ」化してしまう。
そうなれば現場は「ノルマ」を達成することが至上命題となる。もしAjaxを採用するのがユーザ体験の向上につながることがわかっているサービスが目の前にあったとしても、一体誰がそうしようと言い出すだろう。「ノルマ」達成度が期末の評価材料となり、ボーナスや来年の給与に直結するとかいう空気でも感じられれば、技術者の良心を裏切らせるためのお膳立ても完璧だ。
それどころか最悪の場合、ページビューを稼ぐために使いにくいサイトを作ってしまうなんてことにもなりかねない。無駄に画面遷移を分割したり、無駄にフレーム使いまくったり……
かくしてできあがったサイトは、ユーザあたりのページビューが増えて、一時的にページビューを向上することに成功する。が、使いにくいサイトに愛想をつかしたユーザが離れてしまい、結果以前よりページビューを落とす。
その指標を増加させようという試みと、サイトの質を向上しようという試みが完全に真逆を向いているシーンで間違って使うと、悲惨になるということがわかる。
以下は、同じ問題を取り上げている記事。
- MySpace: Unstoppable Force or Unnecessary Click Factory?
- http://www.mikeindustries.com/blog/archive/2006/04/myspace-click-factory
MySpace にて起きているページビューの爆発的増加について分析している。MySpace のページビューが増える仕組みをシーケンスの例示で解説し、"a factory of unnecessary clicks" (不要クリック製造工場)と断じている。
- Does RSS and AJAX Make Pageviews Obsolete?
- http://ajax.sys-con.com/read/267061.htm
上の記事を引き合いにしつつ、MySpace と Blogger.com のリーチはほぼ対等であるにもかかわらず、PV では MySpace が Blogger.com を圧倒しているグラフを示し、次のように述べている。
But it's this pageviews part that I think needs to be more seriously questioned. (This is not an argument that Blogger is as popular as MySpace - it's not.) Pageview counts are as susceptible as hit counts to site design decisions that have nothing to do with actual usage.(ページビューはヒットカウントと同様、実際の利用とは全く関係ないサイトデザインの決定に影響されやすい)
そして Ajaxに加え、RSSリーダーで記事を読む場合や、Widget による利用の場合もあげて、同様にページビューは "obsolete" (過去のもの) と論じている。
さて、ページビューがもう使えないなら、新しい指標が必要になる。
先の記事では、"spent time" (消費時間、滞在時間)を新たな指標として提案している。が、記事中でも認めているとおり(計測が難しい。特にWidgetやRSSの場合は解釈をも含めて)、いきなりそれを特効薬としてもってくることはできない。
記事には明確に書かれていないが、実はページビューの最大のメリットは「定義が明確」であり、かつ Alexa などで「他サイトの情報も比較的得やすい」、つまりベンチマークの指標としてもってこいであり(従って広告料金の決め手ともなる)、これがページビューに取って代わるものが現れていない最大の理由なのである。
そういう理由があるので、ページビューに変わる(ベンチマークにも使える)新しい指標の登場はまだまだ時間がかかると思わざるを得ない。
それまではページビューによる評価は必要な範囲に限定しつつ、コンバージョンレートなど、他のサイトと相対的に比較しなくても意義のある指標を駆使していくしかないだろう。